教則動画の打込み練習会を成功させるコツ

みなさん、打込み練習はやってますか? 時間の都合でスパーリングだけ優先して、新しいテクニックの習得ができていない方も多いのではないでしょうか?

本記事では打込み練習のコツ、教則動画を「見るだけ」で終わらない工夫についてご紹介します。

筆者紹介

延藤素康。BJJ LABのマーケティング担当。教育業界でウェブマーケター、セールスをやっています。柔術歴は2年3ヶ月。終業が遅く、スパーリングのみに出ることが通例。

打込みは何のためにやるのか?

なぜ打込みが必要なのか、あらためて考えてみます。

新しいテクニックを学ぶ場合、認知から実行・習得までをこのように捉えることができます。

  1. 認知:概要を知る
  2. 想起:動きの手順を脳内で浮かべる
  3. 記憶:動作確認をして覚える(2との反復)
  4. 実行(弱):パートナーと示し合わせて試す
  5. 実行(強):防御する相手にかかるか試す

これに当てはめると、運動神経が抜群にいい人は認知・記憶力・空間認識が優れているため、打込みを省略していきなりスパーリングでテクニックを試すことができます。

また、「過去の経験値」と「新しく学ぶ内容」の差分が少ない場合も、打込みを省けることがあります。

たとえばハーフガードを多用する人が初めてオクトパスをインプットする場合、他の人ほど綿密に打込みしなくても、先生の指導(または教則動画)を見てすぐスパーリングで試しても問題ないはずです。

つまり、打込みがどれくらい必要かは、そのテクニックおける「記憶力×習熟度」次第です。

身につけたいテクニックを学べる機会は実は少ない

雑なくくりですが、「A.クラス派」「B.教則派」に分けて、それぞれ単一のインプットしかしない場合について考えてみます。
まずは「A.クラス派」から。

クラス指導ではテクニックの選定に制限がある

ジムのテクニッククラスが充実し、自分のなりたい柔術像・スタイルにマッチした先生がいて、しかも直接教えてもらえる……ベストな環境です。しかし、場所・時間・人には限りがあります。

普通のジムではこのような課題を抱えています。

インストラクターが限られる

指導者が得意とする(使える)テクニックしか教わらないのが通例ではないでしょうか?

たとえば、僕はこれまでディープハーフ、ウエイター、リバースハーフ、後転スイープ、側転パス、サンパウロパスをジムのクラス指導で教わったことがありません。

帯カテゴリによる制限

リストロック、足関節(フットロック以外)など、帯色によって試合で使えないテクニックが扱われることは少なく、人数の多い白・青帯に合わせたテーマになることが多いです。

複雑な動きを伴うもの

たとえばベリンボロはある程度の柔軟性も必要ですし、横回転ができないと打込みにも至りません。また、デラヒーバを使う人でないとそもそも必要となる場面が少なく、一般のクラスでは扱いにくいテーマと言えます。

集団の中で指導を受ける以上、その時の参加者の平均に伴う制限を受けることが普通です。プライベートレッスンをたくさん受けるのも手ですが、お金には限りがあるので多くの人には難しいですよね。

教則動画も万能ではない

次に「B.教則派」について考えてみましょう。

好きな選手またはテクニックが収録された教則動画を見まくればいいか?

と考えると、これも難しいですよね。

そもそも自分の体格やスタイル、抱えている課題に合った教則動画を探すのは難しいのです。また、直接五感でインプットするのと、視覚(画面=一平面上)と音声のみでインプットするのでは、情報量が何倍も異なります。

さらに教則動画の場合、直接講師に教わることがないため、自分の解釈・記憶の比重が高くなります。再現できるレベルに高まってないままスパーリングで使うことになるため、直接見て覚えるよりも遠回りになるという可能性もあります。

※教則動画の欠点はテクノロジーの進化(検索性の向上、再生速度を落とす、いつでもアクセスできる、部分的にリピート再生)により、大幅に改善されていますが。

打込みをやる時間は意外と取れない!

「クラスや教則動画で学んだ内容を復習したい!」という声をよく聞きますが、意外と打込みにじっくり取り組む時間を取るのは難しいのです。

フリーマット(自由にマットを使える)の時間を設けていないジムでは、自由に打込みの時間を取るのが難しい。しかも、練習相手はあなたが学びたいテクニックに興味があるとは限らない。

僕も長らくこの課題を抱えていました。

そんな時、SNSでこんな投稿を見かけました。

教則動画の打込み練習会とは?

昨年からフォローしていた『柔術軽量級練習会』のXアカウント。僕は軽量級なので、気になっていました。

どうやら橋本知之さんの教則動画が素材になるらしい。蹲踞ベースは持ってるし、使っている!ぜひ実施してほしい。投票しました。

この投稿は橋本さんご本人も引用したため、投票がさらに増えました。計57票。

(どちらの教則になっても参加できるように『オープンガードパスの世界』も買っておきました)

BJJ LABでも開催のアイデアはあります

さっそくBJJ LABのメンバー(竹浦さん、下前さん)に共有しました。上記のとおり、教則動画の打込み練習会のニーズは一定数あると読んでいたので、BJJ LABでも開催したいという話は何度か出ていました。

経験者・下前さんから完璧なフィードバックが返ってくる

  • 結論:かなり良い練習
  • コツ:詰まったらその場で見返す
  • 注意:1回の練習会で、(A)複数のテクニックを回すか、(B)1つのテクニックをじっくりやるかでメリット・デメリットがある。(A)(B)について、参加者の共通認識をすり合わせる必要がある。認識がズレると、(A)の場合不完全燃焼で終わる、(B)複数回に参加する必要がありハードルが上がる

ということでした。

練習会当日の様子(レポート)

https://www.shinjuku-sportscenter.jp/facilities/dai1_budojo.html

全19チャプター(107分)の教則動画です。内容については、柔術哲学さんの解説記事が詳しいのでご参照ください。

参加した3名とは初対面でしたが、一つの教則を見ているファン交流会のような連帯感がありました。

簡単にあいさつを済ませて打込み開始。

打込み練習の流れ

実際にやるとこんな流れになります。

  • みんなで映像の確認
  • 使った時の経験を話す
  • ペアに分かれて打込み
  • 集まってフィードバック

これを1セットとし、問題なければ次のチャプターへ進みます。気になることがあれば、そこで再現します。

この日は2時間で19チャプターのうち8チャプター(56分ぶん)まで進みました。

このペースで『蹲踞ベースシステム』の全編を打込み練習すると、約5時間かかることになります。(意外と時間がかかります)

多くの教則動画の1チャプターは3~5分程度です。これをじっくり打込むと1つにつき10~15分はかかります。

じっくり打込みをすると思わぬ発見がある

普段、同じ教則動画を見ている仲間と話すことがないため、言語化することで新しい発見がたくさんありました。

そのうちの2つを紹介します。

【例1】教則動画で語られないこと

クォーターポジション(相手の片足が両足にある状態)の時、相手の足をどこに置くか考えたことはありますか?

教則動画では橋本さんは左膝を相手の右太腿に当てています。

3.クォーターポジションからニースライス

そこで一人の参加者から

「以前、橋本さんの別のテクニックのセミナーに出たことがありまして。記憶が違ったら申し訳ないのですが、その時に『相手の足を自分の両足で挟んでコントロールするよりも、体重をかけられるように膝を太ももの裏に当てる、この形がいい場合もある』と聞いたことがあります」

とコメントをいただきました。

実際どうなんだろう? と、打込みの際にみんなで試してみるという場面がありました。

【2】実際の場面での注意

スマッシュパスを仕掛ける際、すんなりパンツを掴めるのか? もしパンツを掴めない場合、道着の「余り」が出やすいのはどこか? グリップは順手と逆手のどちらがいいのか?

4.クォーターポジションからスマッシュ

ちょうどこの日はAJPの大会が日本で開催されていて(パンツの口を掴むのが禁止ルール)、その場合の話も出ました。

細かいですが、手順が一つでも欠けるとスムーズにかからないので、重要な検討です。

やっぱり打込み練習は必要

教則をじっくり見ていても、実際に試してみないと細部まで気づけないことばかりです。

やはりアウトプットがあるから、インプットも濃密になるようです。自宅で教則動画を見て、記憶を頼りにジムのスパーリングに持ち込んでも、細部についてスルーする(したことすら気づかない)ことになるでしょう。

デメリットとしては、めちゃくちゃ時間がかかるということです・・・いや、これってデメリットではないですね。そもそも新しいことを覚えるのはそれくらい大変なことなのですから。

不定期ですが、自分でも続けています

その後、自分でやろうと思い立ち、仲間に声をかけて時間が合ったタイミングで実施しています。

打込みの重要性に気づけて、あの練習会には本当に感謝です。

※もし都内の方で打込み練習したい方がいればお声掛けください。月曜日20-22時、こちらでやってます。

まとめ

  • 打込み練習が必要かは「記憶力×習熟度」による。
  • 教則動画の打込み練習会を開く場合、予習はマスト(未習者は呼ばない方がいい)。
  • スパーなどですでに試したことあるテクニックの方が課題が見つかりやすい。
  • じっくり一つ一つを試すことで新しい学びが生まれる。
  • なるべく体重が近い人同士の方がはかどる。(レベル差はあまり気にしなくていいかも?)

以前から参加したかった教則打ち込み会。やっと参加できて、効果は高かったです。

ぜひ皆さんも試してみてください。