選手として数々の実績を残し、指導者としても多くの弟子が活躍中の岩崎選手。柔術界で圧倒的な知名度を誇るYoutubeチャンネル「DEEP HALF CLUB」を見ている柔術家も多いでしょう。そんな岩崎選手の代名詞「ハーフガード」の教則を解説していきます。
ハーフガードの教則第2弾『ディープハーフ表裏』も出ています。こちらも解説記事があるので、ぜひお読みください。
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・ハーフガードが苦手な方
→ハーフガードですぐにパスされる。ハーフガードで何をすればいいかよくわからない
・ハーフガードが得意な方
→ハーフガードをメインとして使う。ハーフガードの精度を上げたい
・「ハーフガードの原理原則」の購入を検討している方
※すでに購入した方が復習として使える記事になっているのでぜひご活用ください。
2023年全日本ブラジリアン柔術選手権・青帯ライト級3位。noteで「柔術哲学」のブログを執筆。フローチャートを用いた教則の解説レビュー記事を10本以上書いています。柔術も文章を書くことも好きです。
講師紹介
【前提知識】ハーフガードの概要と種類の整理
内容の解説に入る前に、まずハーフガードについて広く説明します。
ハーフガードとは相手の足を自分の両足で挟んだ形のガードです。細かく分けるとたくさんの種類があります。
この教則で紹介するのは、上記の図の「ハーフ」と「シングルレッグハーフ」「コヨーテハーフ」になります。「ニーシールドハーフ」にしない理由についても教則内で説明されています。
「ディープハーフ」と「リバースハーフ」は続編『ディープハーフ表裏』でメインで扱われています。「リバデラ」や「オクトパスガード」「ハーフバタフライ」は変形のハーフガードですが、この教則では扱いません。
本作の特徴
本作の最大の特徴は、コンセプト(原理原則)の話に絞っている点です。この教則で紹介されている技自体はほとんどの柔術家が知っています。しかし技の原理原則や動きの理由を本当の意味で理解している人は少ないはずです。
本教則で紹介されている、「一つひとつの動きの意味を突き詰めたディティール」は、見る人の柔術をワンランク上に押し上げてくれます。ここまでハーフガードの原理原則、コンセプトを説明している教則はありません。
世界的な柔術家カイオ・テハ選手の言葉に「一つの技を覚えても一つの場面でしか使えないが、一つの考え方を学べば千の場面で使える」という言葉があります。この教則を見ることでハーフガードの原理原則を学び、試合で使える本物のハーフガードを身に付けましょう!
フローチャート(学習マップ)
「右手」「左手」等の記述については教則に合わせて、相手の右足に絡むハーフの場合を指します。
※以下のフローチャート上の番号は教則のChapter番号と一致させています。
1.ハーフガードと他のガードの決定的な違い
2.ハーフガードの構え方
3.脇差しの攻防について
4.寝かされない為の方法
5.脇が差せたらやるべき事
6.寝かされたらやるべき事
7.腰を切られたらやるべき事
8.シングルレッグハーフの構え方
9.ラペラの持ち方
10.シングルレッグへの移行
11.シングルレッグの取り方
12.シングルレッグの倒し方
13.ハーフガードをやる際の心構え
Chapter1&13.ハーフガードの特徴と心構え
後述します。じっくり確認した上で、動画2~12の実際のテクニックに進んでください。
Chapter2~4.ハーフから脇差しまで
Chapter5~7.脇を指してからの攻防
Chapter8~12.シングルレッグハーフ
なぜハーフガードなのか? コンセプトとメリット
Chapter1について深堀します。
教則内でも説明しているように、足のフレームがないハーフガードは防御も攻撃も強くありませんが、カウンターに優れています。カウンターをとる際に重要なのは相手のアクション・リアクションを読む能力です。
ハーフは「読みのガード」「カウンターのガード」と言えます。
足を一本またがれている=半分パスされているポジションがハーフガードです。しかし相手のパスガードが完成に近い分、こちらもバックや股下に近い状態です。
たとえば、別のガードをイメージしてみてください。クローズドからもぐって相手の股下に入るのは難しいです。片袖片襟やスパイダーで相手の下にもぐるのは可能ですがやや距離があります。
「半分パスされている」
↓
「半分バックに近い」
+
「半分股下に近い」
図解します。
ハーフガードは「知らないからかかる」という技が少ないです。
そうなると「ディティール」「タイミング」「崩し」「読み合い」「組手」「原理原則の理解」といった部分で差がついてきます。
その差をつけるためにもこの教則は有効です。
ハーフガードは必修科目
ハーフガードをメインガードとして使わない人でも、ハーフガードは学ぶ必要があります。
理由としては、ハーフガードはフルガード(※)とパスやエスケープの中間にあるポジションだからです。
(※片袖片襟やスパイダーなど自分の両足の間に相手がいるガード。一般的にハーフガードよりも相手を強くコントロールできる)
「ハーフは苦手だし、プレッシャー受けるし、あまりいいガードと思わないからやらない」という意見はありますが、フルガードを突破された時にハーフで全く対応できないというのは試合で大きな弱点となります。
メインでハーフを使わない場合でも、パスのディフェンスやサイドやマウントからのエスケースでハーフを使う場面が出てきます。また、トップからのアタックとしてもハーフを学ぶことでハーフパスの上達につながります。
メインで使わなくとも保険としてハーフガードを持っていると思い切ってフルガードからアタックに行けますし、パスされそうなタイミングでハーフで捕まえてパスを防ぐということもできます。
また、レッスルアップや立つ動きと相性がよいためMMAやノーギでもハーフはよく使われます。
メリット
- カウンターに優れているため、ベースが強い相手でもスイープを取れる
- パスられ際にディフェンスに使える
- バック・マウント・サイドからのエスケープに使える
- 腰の負担が少ない、柔軟性があまり必要ない
- 相手を固定できる(バンバン飛んで走ってくる相手に最適)
- タックル(レッスルアップ)と相性がいい
- ノーギ、MMAで使える
- フィジカルを活かしやすい
- 手順が難しい技が少ない、足の複雑な動きが少ない、手の技が多い(※)
※単純で手を使う技は、相手も同様で手を使って防げるし技を読まれやすいのでデメリットでもある。
デメリット
- そもそも半分足をまたがれているのでディフェンス力が弱い、パスに近い
- 体重を使われる、顔を削られる、しんどい、スタミナ消費が多い
- フィジカル要素が多い
- 単純な手を使う技が多く、防がれやすい
- ノーギだと首を狙われやすい=フィニッシュに近い
- 組手争いや技のタイミングがシビア
語弊を恐れずいうと、いいガード(こちらが有利な形のガード)ではありません。
ハーフガードの相性
向いている人
- 腰痛持ち
- 体が固い、足が効かない
- 反射神経が良くない(遠距離パスに反応できない)
- キムラ、タックル、ブリッジなどが得意
- 足を締める力、しがみつく力が強い
- フィジカル、力が強い
向いていない人
ハーフガードは誰でも取り組む必要がありますが、以下の人はメインで使わなくてもいいかもしれません。
- 肩をケガしている
- 首が悪い
- 密着した攻防が苦手、フルガードをメインに使いたい
- 手足が長くて細身体型の人
ハーフは腰に優しいですが首には厳しいガードです。絞めを狙われやすいガードでもあります。
相性のいいテクニック・合わせて覚えたい技
<教則内で紹介されている技>
- コヨーテハーフ
- レッスルアップ、シングルレッグタックル
- ブリッジスイープ
<教則内では紹介されていないが覚えたい技>
- ディープハーフ、リバースハーフ(続編の『ディープハーフ表裏』で解説)
- 奥側の手へのキムラロック、手前の手へのリバースキムラ(2on1)
- ハーフラッソー
使ってみた感想
自分が今まで使っていたハーフガードがいかに雑であったかを実感しました.。肩の位置、襟やラペラの握り方、倒す方向、タイミングなどの教則内のディティールを意識してスパーをしてみたところ、有利な組手を作れるのでその後のアタックの精度が上がります。
組手争いや位置取りをシビアにやることで知らない相手には簡単にコントロールしてスイープできました。
また、上級者相手にも、この教則で学んだ譲ってはいけないポイントを意識すると簡単にパスされなくなりました。
最近はハーフガードはフルガードを突破されたときの保険で、すぐにフルガードに戻すようにしていたのですが、今回この教則を見て改めてハーフガードにしっかり取り組みました。
ある程度時間をかけてハーフガードに集中的に取り組む時期を設けないとハーフガードをしっかり身につけるのは難しいと感じました。
個人的に好きなテクニック
「2.ハーフガードの構え方」
「3.脇差しの攻防について」
「4.寝かされない為の方法」
がとても勉強になりました。
ハーフガードからのスイープは習う機会も多いですし、YouTubeでもたくさん紹介されています。しかしその前段階の組手や脇差しのテクニックをここまで深く説明してもらえる機会は少ないです。組手争いや脇差しの攻防に勝たないとスイープはきまりません。
「クラスでハーフからのスイープを教えてもらってもスパーではできない。そもそも形に入る前に潰されてしまう」という人はこのチャプターのテクニックを見ることでブレイクスルーできるかもしれません。
ハーフガードの攻防で、重要な「構え」「組手」「肩の位置」「寝かされないための方法(相手の圧力に潰されない方法)」を知ることができます。
「9.ラペラの持ち方」は初めて知ったテクニックでした。
ここまで細かく考えてラペラを扱っていませんでした。このラペラのコントロールがとても強くて、その後の「10.」「11.」「12.」で紹介されているシングルレッグの攻防も優位に進めることができました。
まとめ
最後に教則のこの言葉を紹介します。
- 「ハーフガードをする際は、相手のアクション、リアクション、組手を見てその全弾のカウンターをとってやろうという気持ちが大事。ハーフガードはディフェンスも自分でアタックする力も弱いがカウンターは強い」
- 「ハーフガードは読みのガード」
- 「脇を差されるくらいならパスされてもいい」
また、本教則ではテクニックだけでなく、「考え方」「コンセプト」「動きの意味」「技の原理原則」を学べます。岩崎選手の柔術哲学に触れられる本教則は、ただテクニックを覚えるだけでなく柔術のより深い部分を楽しむ手助けをしてくれます。
ハーフガードが得意な人はもちろん、苦手意識がある人、柔術を楽しみたい全ての人にこの教則はオススメです!