ブラジリアン柔術とは?柔道との違いを徹底解説しました

マーク・ザッカーバーグ氏、俳優の岡田准一さん、玉木宏さんなど、数々の著名人が協議に取り組んでいることで、「ブラジリアン柔術」の名称が少しずつ知られるようになっています。また、RIZINなど総合格闘技で活躍する多くの選手がブラジリアン柔術をベースにしています。

しかし、「ブラジリアン柔術と聞いてもどんなスポーツかイメージできない」「柔道との違いがわからない」という方も多いのではないでしょうか?

そんな方のために、柔道と比較しながらブラジリアン柔術とはどんなスポーツなのかを説明していきます。

この記事を読めば、ブラジリアン柔術の特徴がわかります。

ブラジリアン柔術と柔道、どちらも経験した私がその経験を元にご説明します。

では、早速見ていきましょう。

筆者紹介:楢山吉隆
ブログ『柔術旅 〜BJJ JOURNEY〜』運営者。21歳のときに地元福井のブラジリアン柔術サークルで柔術を始める。その後は東京、大阪、フィリピン、ニュージーランドなど国内外を転々しながら各地の柔術・総合格闘技ジムに所属し大会に出場。現在は関西を拠点に日本各地に赴き大会出場及び出稽古を重ねる。

ブラジリアン柔術と柔道の違いがわかる7つの観点

今回は下記7つの観点からブラジリアン柔術と柔道との違いを解説していきます。

ブラジリアン柔術と柔術の違いがわかる7つの観点

  1. 起源と歴史
  2. 競技の特徴と目的
  3. ルール
  4. テクニック(技)
  5. 道着と帯
  6. 練習
  7. 練習場所

では、それぞれの起源と歴史からご説明します。

ブラジリアン柔術の起源と歴史

ブラジリアン柔術はブラジル発祥のコンタクトスポーツ

柔道は日本の古来の柔術を組み替え、日本国内で発展しました。一方、ブラジリアン柔術は古来の柔術をベースにしながらも、ブラジルで大きく発展したスポーツです。

POINT

現在、日本で広く「柔術」と呼ばれる競技は、厳密には「ブラジリアン柔術」のことを指します。つまり、逆輸入的に日本に戻って普及したのがブラジリアン柔術なのです。英語表記は「(Brazilian) Jiu-Jitsu」。当サイトの「BJJ」はこの頭文字を取ったものです。

19世紀末、日本古来の柔術を基に嘉納治五郎により柔道が創設され、その後ブラジルに渡って改良されグレイシー柔術となりました。

Wikipediaより引用

グレイシー柔術はやがて普及と競技化が進み、ブラジリアン柔術と呼ばれ始めます。

では、その経緯を簡単にご説明します。

日本の柔道がブラジルに渡りグレイシー柔術に

嘉納治五郎の弟子の一人、前田光世(1878~1941)は26歳の時、柔道を世界に広めるために海外に派遣された柔道家の一人でした。

Wikipediaより引用

彼はアメリカ、ヨーロッパ、そして最終的には南米に渡り、柔道の普及と技術を披露するための試合を行います。

当時は日本からブラジルへの移民が増加していた時期だったこともあり、前田光世もブラジルに定住し、日本人移民のコミュニティと関わりながら柔道を広めました。

前田光世の教え子の一人だったカルロス・グレイシー(1902~1994)は、前田光世から学んだ技術を基に自身の弟子たちや兄弟と共に柔術の技術を磨きます。

Wikipediaより引用

特にカルロス・グレイシーの弟エリオ・グレイシー(1913~2009)は、小柄で体力がそれほど強くない自分でも効果的に使えるように寝技を重視し、関節技や絞め技を強化しました。

これがグレイシー柔術誕生の経緯です。

グレイシー柔術が競技として発展しブラジリアン柔術へ

その後グレイシー一族は自らの技術を広めるため、ブラジル国内で挑戦試合を行い、他の格闘技の選手たちと戦います(グレイシー・チャレンジ)。

彼らの試合は映像化されブラジル国内外で広まり、グレイシー柔術の有効性を証明し、多くの注目を集めました。1990年代に入ると、UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)の初期の大会でホイス・グレイシー(エリオ・グレイシーの息子)が活躍し、世界的にグレイシー柔術の知名度が上がります。

それ以降、国際的な大会や道場が増える中で、「ブラジルで発展した柔術」という意味で「ブラジリアン柔術」という名称が自然と定着していきました。(商標の問題もあったという説も有力です)

競技の特徴と目的

ブラジリアン柔術は寝技を主体とする

柔道が立技を主体とするのに対し、ブラジリアン柔術は寝技を主体とします。

そのため、ブラジリアン柔術の試合は立技から始まりますが、早い段階で寝技に移行することが多いです。

長時間の寝技での戦いを重視し、ポジションのコントロールサブミッション(関節技や絞め技)での一本が決着となります。

柔道のように投げ技や固め技で一本にならない

ブラジリアン柔術と柔道の大きく違うところは、投げ技や固め技で一本決着にならないところです。

たとえ相手を投げても試合は続行されます。

また、相手を長時間押さえ込んだとしても、一本にはならずポイントも入りません。

投げはテイクダウンと呼ばれ、ポイントが入ります。また、柔道では相手の足に直接触れて投げることが禁じられていますが、ブラジリアン柔術では相手を投げる際の制限はありません(危険な行為を除く)。

柔道から投げ技や固め技の一本を無くしたものがブラジリアン柔術

以上のことをまとめると、柔道から投げ技や固め技の一本を無くしたものがブラジリアン柔術と言えるでしょう。

柔道でも関節技や絞め技での一本決着があるため、「相手を投げた後も攻防が続く柔道=ブラジリアン柔術」と考えればイメージしやすいですね。

ただし、ブラジリアン柔術には自ら寝てガードポジションを取る引き込みがありますが、柔道にはありません。また、ブラジリアン柔術では許される一部の関節技、つまりひじ関節以外の関節を取る技、飛びつき腕ひしぎ十字固めなどは柔道では反則とされます。

ブラジリアン柔術のルール

ブラジリアン柔術はアクションやポジションごとにポイントがある

柔道ではアクションやポジションごとにポイントはありませんが、ブラジリアン柔術にはポイントがあります。

ブラジリアン柔術のポイントは以下の通りです。

ブラジリアン柔術のポイント一覧

  • 2ポイント
    • テイクダウン…相手を倒してトップポジションを3秒以上維持
    • ニーオンベリー…膝で相手の腹部を押さえて3秒以上制する
    • スイープ(下からの返し)…ガードポジションの選手が技を使って上下交代し、トップのポジションを3秒以上維持
  • 3ポイント
    • パスガード…ガードポジションの相手に対して、トップポジションの選手が横または頭上から3秒以上押さえ込む
  • 4ポイント
    • マウントポジション…上の選手が相手にまたがって馬乗りの状態で3秒以上押さえ込んだ場合(仰向け、うつむせ、横向き全て有効)

バックコントロール…背後から両足を相手の内ももに絡めて3秒以上制した場合(両足を組んだ場合は無効)

つまり、より優位とされるポジションを取るごとに大きなポイントが入るのです。

柔術には柔道のような合わせ技一本がない

柔道では一本勝ちの他に、技ありを2つ取ることによる合わせ技一本があります。

技ありとは、一本の要件を完全に満たさない技をかけたときに得られるポイントです。寝技では10秒以上押さえ込んだ場合に技あり、その後20秒以上押さえ込んだ場合1本になります。

しかし、ブラジリアン柔術の場合、一定のポイントを重ねても勝ちにはなりません。

技ありに似たルールとしては、ポイントが入る要件を完全に満たさない場合に「アドバンテージ」を得られます。(サブミッションをしかけたが不完全だった、ポジションを3秒以上維持できなかったなど。)

アドバンテージの有無は大会を主催する連盟により異なります。

一本が取れなければポイント数で勝敗がつく

ブラジリアン柔術は関節技や絞め技といったサブミッションでの一本決着をねらっていくものですが、一本が取れない場合はポイントの数で勝敗がつきます。

ポイントも同じであればアドバンテージの数。アドバンテージが同じであれば判定になります。※主催する連盟により異なります。

そのため、高いレベルになるとなかなか一本が取れないこともあり、ポイント決着となることが多々あります。

ブラジリアン柔術は、柔道の一本決着ルールとレスリングのポイント制を合わせ持つ競技と言えるでしょう。

ブラジリアン柔術のテクニック(技)

ブラジリアン柔術のテクニックの数には限りがない

柔道には計100本の技がありますが、ブラジリアン柔術のテクニック(ブラジリアン柔術における技のこと)の数に定めはありません。

むしろ、ブラジリアン柔術のテクニックの数は無限にあると言えるでしょう。

柔道の技数は投技が68本、固技が32本、計100本

全日本柔道連盟によると、柔道には投技が68本、固技が32本、合わせて100本の技があります。それぞれの技には名前があり、さらに手技、腰技、足技、真捨身技などの部類分けがなされています。

しかし、ブラジリアン柔術ではこういった部類分けはなく、名前すらない技が数多くあります。

日々世界中で新しい技が生まれ続けるブラジリアン柔術

なぜブラジリアン柔術にはこれほど技が多いのか?

それはブラジリアン柔術の攻防ではさまざまな状況(シチュエーション)が起こりえるからです。

たとえば柔道の場合、相手と正対し組み合いますが、基本的にはこの状態からしか技は発生しません。

しかしブラジリアン柔術の場合、

  • 相手が寝ており自分が立っている状態
  • 自分が寝ており相手が立っている状態
  • お互いに寝ている状態、もしくは立っている状態

など、技が起こりうる状況が限りなく多いのです。

そのため必然的にテクニックの数は増え、世界では日々新たなテクニックが生まれ続けています。

ブラジリアン柔術の道着と帯

ブラジリアン柔術の道着は3色でパッチの貼りつけ可能

柔道の試合では白色(国際試合では判別のためどちらかは青色)のみ認められていますが、ブラジリアン柔術の試合では白、青、黒色が認められています。

また、柔道の練習では基本的に白色の道着を着て行いますが、ブラジリアン柔術の場合は特に制限はありません(道場ルールで色が定められている場合もあります。)

さらに試合規定に反していなければパッチの貼り付けも可能なため、ブラジリアン柔術着は柔道着より派手なものが多いです。

柔道着に対し細身でゆとりが少ない

道着の違いは色だけではありません。

実はも違っており、ブラジリアン柔術着の方が全体的に細身でゆとりが少ない作りになっています

また、練習用に限って言えば生地の制限もなく、デニム生地のものや、上衣がパンツと同じ素材のものなども散見されます。

試合用は綿または綿に近い素材と規定されています。

ブラジリアン柔術の帯色は主に5色

道着の色のみならず、ブラジリアン柔術は柔道と比べて帯の色の数も多いです。

柔道:白、茶、黒色
ブラジリアン柔術:白、青、紫、茶、黒色

また、ブラジリアン柔術には各帯色ごとに段位があり、それをストライプで表します。

トライフォースより引用

ストライプは各帯につき4本までで、5本目は次の帯色に変わるということです。

一般的には白帯⚪︎段という言い方はせず、白帯ストライプ⚪︎本という言い方をします。(黒帯は例外)

つまり、より小刻みに熟練度を目視化していくのがブラジリアン柔術の帯制度であり、自分や他人の成長度合いを測りやすい側面がブラジリアン柔術にはあるのです。

ブラジリアン柔術の練習(環境)

ブラジリアン柔術のクラスでは毎回テクニックを習う

柔道の練習では技を学ぶ時間が設けられていないことが多いですが、ブラジリアン柔術の練習では一般的にテクニックを学ぶ時間が設けられます。

柔道の練習メニューは、主に打ち込み(反復練習)、投げ込み、乱取り、寝技打ち込み、寝技乱取りで構成されますが、ブラジリアン柔術の場合は主にドリル(反復練習)、テクニック、スパーリングという練習構成がなされます。

柔道のように立技と寝技で練習を分けない

上述の通り、柔道では立技と寝技で練習を分けますが、一般的にブラジリアン柔術の場合は分けないことが多いです。

これは寝技の攻防が主体となること、柔道よりも立技と寝技の境目がはっきりしていないことが理由として挙げられます。

シチュエーションスパーリングやクラス分けで練習の効率化も

先に挙げたのは主だった練習内容ですが、技の反復練習(ドリル)や、状況を限定したシチュエーションスパーリングが練習に取り入れられている場合もあります。

シチュエーションスパーリングは、立技のみ、定められたガードを作った状態からのスタート、ポイントが入ったらリセットなど、制限を設けた上で行います。

また、ブラジリアン柔術のジムの中にはクラスによって練習内容を変えたり、学ぶテクニックを制限するジムも存在します。

膨大なテクニックを身につけるため、ブラジリアン柔術ではより効率性を重視した取り組みがなされていると言えるでしょう。

練習場所

ブラジリアン柔術の練習場所は私営のジムが一般的

柔道はスポーツ少年団学校の部活連盟が開催する柔道教室で習うのが一般的です。

それに対しブラジリアン柔術は私営のブラジリアン柔術専門ジム総合格闘技ジムサークルで習うのが一般的です。

柔道のようにスポーツ少年団や学校の部活では習えない

2024年現在、スポーツ少年団や学校の部活動でブラジリアン柔術を習える場所はほぼないでしょう。そのため、子どもがブラジリアン柔術を習う場合、大人と同じように私営のジムに通うことになります。

子どもから大人まで習いやすいのがブラジリアン柔術

上述の通り、柔道はスポーツ少年団や学校の部活などで習うのが一般的となっているため、大人になって柔道を学べる場所は多くありません。

しかし、ブラジリアン柔術の場合は私営のジムやサークルで習うのが一般的であるため、年齢問わず幅広い世代の人が習えます。

子どもから大人まで習いやすいのがブラジリアン柔術の良いところですね。

関連記事『柔術ジムの選び方を徹底解説!初心者が失敗しないジム選びの5つポイント』

柔道と比べブラジリアン柔術には選択肢が多いため敷居が低い

今回は柔道との違いを中心にブラジリアン柔術の特徴を解説しました。

最後にブラジリアン柔術と柔道との違いを簡単にまとめておきます。

柔道ブラジリアン柔術
起源と歴史日本古来の柔術を基礎に創設柔道がブラジルに渡り改良され、世界に広まった
競技の特徴と目的立技が主体。主に投げ技や固め技での一本を狙う寝技が主体。サブミッション(関節技や絞め技)での一本を狙う
ルール技ありのみ。技ありを2本取れば1本になるアクションやポジションごとにポイントがあり、ポイントの累計は1本にならない
テクニック(技)技の数は100本と定めがあり、投げ技や関節技に禁止技がある技の数に定めがなく、限りがない。危険な行為でなければ禁止技がない
道着と帯白色の道着のみ。帯色は白、茶、黒の3色白、青、黒の道着があり、帯色は白、青、紫、茶、黒の5色
練習立技と寝技で乱取り(スパーリング)を分けることが多い乱取りを分けず、シチュエーションスパーリングやクラス分けで効率化を図る
練習場所スポーツ少年団や学校の部活が一般的。大人の教室が少ない私営のジムやサークルで習うことが一般的。子どもから大人まで習いやすい

柔道と比べ、大人でも習える場所が多いのがブラジリアン柔術の大きな特徴の一つ。

また、テクニックの数の多さから自分に合ったテクニックで勝負することができ、柔道ほど筋力や瞬発力が必要ないことから比較的始めやすいスポーツだと言えるでしょう。

さらに、帯色が細かく分かれていることや段位(ストライプ)の制度があることから、日々自分の成長を実感できるため、続けやすいスポーツでもあります。

ブラジリアン柔術がどんなものか理解できたという方は、ぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか?