【柔術上達の第一歩】なぜガードリテンションを身に付けるべきなのか

「ガードリテンション」とは、柔術の攻防において、ボトム(下)側のプレーヤーが崩されたガードを戻す・再構築する技術のことです。

「地味でディフェンシブなもの」と思う方も多いはず。しかし、ガードリテンションは柔術において重要な位置づけにあります。また、ボトムのみならずトップアタックの上達においてもガードリテンションを学ぶことは有用です。

人気バスケット漫画『スラムダンク』の1シーンで「リバウンドを制するものはゲームを制す」という言葉が登場します。-2点が消えて、+2点のチャンスが生まれる、つまり+4点分の働きだという意味です。

柔術のガードリテンションは、まさにバスケットのリバウンドに相当するものです。パスガードされる(-3点)ピンチから、一気にスイープ(+2点)するチャンスが生まれます。

「ガードリテンションを制する者はゲームを制す」と言っても過言ではありません。

今回は柔術で必須のガードリテンションについて詳しく解説します。

筆者紹介:安藤慎一朗

ブラジリアン柔術青帯。noteで「柔術哲学」のブログを書いています。フローチャートを用いた教則の解説レビュー記事を20本以上書きました。柔術も文章を書くことも好きです。2023年全日本マスター柔術オープン青帯階級別優勝、2023年全日本柔術選手権青帯階級別3位

この記事がおすすめの方
  1. 初心者で何から身に付けるべきか分からない方
  2. スパーや試合で簡単にパスされてしまう方
  3. オープンガードを身に付けたい方
  4. トップアタックを強化したい方

本記事ではガードリテンションの重要性、コンセプト、鍛え方、さらにこれらを学べる教則動画をご紹介します。

1.ガードリテンションの重要性

まず、なぜガードリテンションが重要かについてお話します。

1-1 ガードリテンションはボトムの最初に必要とされる技術

「習ったテクニックをスパーで試そうと思っても簡単にパスされて何もできずにやられた」という経験は誰もがあるでしょう。

ボトムアタックには順番があります。その順番を無視してアタックすることはできません。

ボトムに必要とされるものは、まずはディフェンスです。

さらにディフェンスの中で、最も必要とされるのがガードリテンションです。

華麗なスイープやサブミッションは、的確なガードコントロールから生まれます。そのガードを作るためにはまず土台となるディフェンス(ガードリテンション)ができなくてはいけません。

ガードリテンションができれば強いガードが作れることができ、ミスしてもリカバリーできるので思い切ってアタックできます。メンタルに安心感や余裕が生まれることも大きなメリットです。余裕があると試合での消耗が少なくなりスタミナの不安が減ります。

1-2 試合においてパスガードの-3点は致命傷

試合においてもガードテンションは重要です。実力が拮抗している相手との試合では、パスガードを許すと(-3点)、ほぼそのゲームでは負けます。多くの選手は「パスされたら負け」という気持ちで試合に臨んでいます。

試合で致命的な失点を回避するためにもガードリテンションは必修の技術です。パスを防ぎ、失点を減らすことは勝率に直結します。

1-3 ガードリテンションは中級者(オープンガーダー)への登竜門

初心者がまず最初に覚えるのはクローズドガードです。この段階では足を使った高度な防御(ガードリテンション)ができなくても、クローズドさえキープできればパスされません。しかし、レベルが上がると簡単にクローズドガードに入ることができなくなります。そのため中級者以上になるとオープンガードを身に付ける必要があります。

オープンガードの習得で最初に身に付けるべき技術がガードリテンションです。ガードリテンションができないとオープンガードをやっても簡単にパスされてしまいます。つまり、ガードリテンションはオープンガードの基礎であり、中級者への登竜門と言えるのです。

1-4 ガードリテンションはアタックにつながる

ガードリテンションは、ただ相手のパスを防御するだけではありません。最小限の力で効率よくガードリテンションできれば相手を消耗させることができます。

さらに、ガードリテンションからカウンター、つまり相手の動きに対応したスイープやサブミッションをとることも可能です。

ボトムから強いアタックを仕掛けるためのファーストステップとして「相手の足を触る」「体重がのる」という状況があります。ガードリテンションの過程では相手の足に触れる機会や、相手の体重が乗ってくる瞬間が多く生じるため、カウンターにつなげやすいのです。

2.ガードリテンションのコンセプト

相手と自分の間にフレームを入れる

ガードリテンションを理解する上で、「フレーム」という概念が非常に重要です。フレームについてはこちらの記事で細かく技術解説しておりますのでぜひご一読ください。トップでもボトムでも活かせるフレームの考え方が学べます。

「フレーム(Frame)」を理解すれば、柔術が上手くなる! | BJJ LAB

相手の侵攻を腕で止めて、足を戻す

私はフレームを下記のように定義しています。

「相手の前へのプレッシャーを止めるモノ」

ボトム側は自分の胴体と相手の間にスペースを作ればパスされません。そのスペースを作る手段が「フレーム」です。効果的なフレームを使うことで相手の攻撃を防ぎつつ、自身の反撃の機会を作り出すことができます。

※「フルガード」はハーフガードではなく相手に対して両足が当たっていて、相手をコントロールできている形を指します。

例:片袖片襟ガード、スパイダーガード、ラッソガード、など。

ボトムは相手のパスガードをしのいで、相手を強くコントロールできるフルガードを目指します。

トップは相手のフレームを突破してパスを目指します。


このぶつかり合いがガードリテンションの攻防になります。

フレームの強さについて

フレームの強さ

足(裏) > 膝 > 手(腕)

フレームの強さには階層があります。

  1. 足のフレーム(足裏が当たっている形):最強のフレームです。足の筋力は強く、手に比べて長いためスペースを作りやすいです。
  2. 膝のフレーム:ニーシールド(膝を使った防御)や横に回られたときに使えます。
  3. 手や肘のフレーム:足が入らない時の最終防衛ラインとなります。多くの場合、手のフレームで相手を止めている間に足のフレームを入れてガードリテンションを行います。

フレームの使い方について、先述の記事より引用です。

どのようにフレームを入れるかは、①相手と自分との距離、②自由に使える四肢によって変わります。「単に相手のパスガードをしのぐ」意識から、「フレームを作りつづける」意識に切り替えることで、ガードリテンションは格段にレベルアップします。

「フレーム(Frame)」を理解すれば、柔術が上手くなる!

自分のフレームを相手のどこにあてるのかは状況によって臨機応変に対応していきましょう。

下記のAとBの組み合わせをそのシチュエーションに合わせて使います。

A:自分のフレームの種類

足、膝、手、肘、肩、頭

B:フレームを当てる位置

肩、腰、二頭筋、手首、胸、内もも、スネ、顔

3.ガードリテンションのポイント

初心者のうちは、パスで攻め込まれると何をすればいいか分からず後手に回ってエビをする⇒パスされる、という場面が多くあります。そういった場合は本章のポイントを意識してみてください。

ガードリテンションのポイントを整理するには、「どうすれば効率良く”相手と自分の間にフレームを入れるか?”というコンセプトを達成できるか」を考えるのが有効です。

3-1 相手を自分の両足の内側に入れる(相手を正面に置く)

相手との位置取りは非常に重要です。強いフレームを入れるためには相手を正面に置く位置取りをすることが大切です。足は「肩、股関節、足首、爪先」が同じラインにあると強い力が出ます。

『橋本知之 ガードリテンション大全 vol.1』より

12:46より

この図では相手が自分の横についています。これが弱い形。パスされる一歩手前です。

12:52より

一方、この図では相手が自分の正面にいるため足のフレームが入っていて強い形です。

3-2 エビをするな!

パスされていない段階でエビをすると、自分の胴体ががら空きになります。エビせず、足を回ししたり、肘と膝をくっつけて胴体を守りましょう。パスガードを狙う相手はこのスペースをついてきます。

エビは重要な動きですが、ガードリテンションでは隙になります。

肘と膝をくっつけてディフェンスしている

肘と膝をくっつけて胴体を守っていれば、相手がパスガードをするスペースがないので簡単にはパスされません。

肘と膝にスペースがある

肘と膝のコネクトが解除されると胴体にスペースが生じてしまいます。このスペースに相手が入ってきてパスされてしまいます。トップは足をさばいたり上半身をコントロールしたりしてこの状態を作りパスします。

エビをした直後の様子

エビの形をみると肘と膝のコネクトが解除されて胴体のスペースが露出しています。パスされる弱い形です。パスが上手い選手はむしろ相手のエビを誘発します。エビをさせて露出した胴体のスペースに入ってパスします。

3-3 足(足裏)が相手の肩にあたっていればパスされない

ガードリテンションでは最も強い足のフレームを作ることを目指します。その際、腰(&ソケイ部)に足裏を当てるとさばかれやすいのでガードリテンションでは肩に足裏を当てましょう。一発で足を当てるのが難しければ、手の平で一度肩を止めてから、その隙に足を回すなどするといいです。

ちなみに組み勝っている状況(片袖片襟で頭下げさせている形など)であれば腰に足を置くのは強いです。

3-4 手のフレームは肘を伸ばす

足の筋肉ならともかく、腕の筋力で相手のプレッシャーを止めるのは大変です。手のフレームを使う際は筋力よりも骨格を利用しましょう。例えば「エルボープッシュエスケープ」では、肘を伸ばして腕の筋肉ではなく骨格を利用して距離を作ります。

膝が伸びて骨格でしっかりプッシュできている
肘が曲がってプッシュできていない

上の画像では肘が伸びていて腕のフレームがしっかり入っていてプレッシャーを止めることができています。これ対して、下の画像は肘が曲がっていて相手のプレッシャーを止めることができていません。

※このフレームも万能ではないため、むやみに伸ばすと腕十字を取られることがあるので注意が必要です。

3-5 先を読む

ガードリテンションはスピードや反応が重要になってきます。相手の姿勢やグリップを見て先を読んで止める意識を持ちましょう。「見てから動く」では遅いのです。

柔術の攻防においては、基本的にはトップ側の相手にアタックの選択権があり、ガードリテンションは後手に回る形になります。だからこそ先を読んで動くことが大事です。

4.ガードリテンションにおけるハーフガードの立ち位置

ハーフガードをメインに使うハーフガーダーもいますが、ハーフガードは半分パスされた形なので、できることならフルガードにもどすのが基本です。

パスされそうなときに足をひっかけてハーフガードにすることでリテンションすることが可能になります。また、バックやマウントやサイドからエスケープをするとハーフガードの形になります。いざというときの保険としてハーフガードを持っておくと安心です。

ハーフガードの注意点

・フルガードに戻すことばかり狙わない
→フルガードに戻すことだけを狙うと相手もそれを警戒して潰してきます。そのため、アタックとフルガードに戻すことを並行して狙っていきましょう。

・腰を押すな、肩を押せ
→腰を押すのは、肩が落ちて枕がとられたときです。まずは肩を止めましょう。

・脇を差されない、枕を取られない
→脇は差すことよりも差されないことが大事です。
→枕を取られると顔の向きをコントロールされてしまうのでしっかりブロックしましょう。

・両肩をマットにつけない。半身になる
→ハーフは両肩がマットに着くと相手にコントロールされます。常に半身を維持しましょう。

ハーフガードの教則はこちらがオススメです。

岩崎正寛 ハーフガードの原理原則 DHC SYSTEM vol.1 HALF GUARD FUNDAMENTALS | BJJ LAB (bjjlaboratory.com)

5.ガードリテンションの鍛え方

ガードリテンションを効果的に鍛えるには、以下の2つのステップが重要です。

①知識を付ける(パターンを増やす)
②動きを鍛える(精度を高める)
③スパーで試行錯誤する

5-1 知識をつける

先読みには知識が必要

ガードリテンションにおいて、先読みの能力は非常に重要です。
相手の動きを予測し、それに対して適切に対応することで、効果的なガードリテンションが可能になります。この先読みの能力を養うためには、幅広い知識が必要です。

ガードリテンションは地道に知識を身に付ける必要がある

トップからのアタックは多様で、相手に選択権があります。そのため「これだけ覚えておけばOK」という簡単な解決策はありません。相手が仕掛けてくる可能性のあるアタックごとの対処法を、ひとつひとつ地道に身に付ける必要があります。

たとえばトップなら「トレアドールだけ練習しておけばOK」ということもあるかもしれません。しかし、ボトムの立場では、「トレアドールに対するリテンションだけ覚えておけば大丈夫」とはなりません。相手が使用する可能性のあるさまざまなパス技術に対して、適切な対応を学ぶ必要があります。

したがって、基本的なパスに対するガードリテンションのテクニックは、一通り覚える必要があります。

ガードリテンションの知識をつけるためにはこちらの教則がオススメです。

『ガードリテンション大全vol.1』橋本知之(BJJ LAB)

『ガードリテンション大全vol.2』橋本知之(BJJ LAB)

『GUARD REVIVER』松本一郎(BJJ CHANNEL)

5-2 動きを鍛える

ソロムーブ

・壁を利用したリテンションのソロムーブ

壁を使ったドリル【柔術】【BJJ】
『お家で一人で練習出来るムーブ。これ出来たら絶対ベリンボロできるよ』

足回しでのリテンションの動きが身に付きます

・エビ

一番大事なエビの方法を紹介します

「リテンションでエビをするな!」といいましたが、それはリテンションの初期段階の話。距離を詰められた時はエビをすることもあります。

ガードリテンションは反応とスピードが大事です。頭で考えなくてもスムーズに体が動くようにソロムーブで動きを鍛えましょう。

5-3 スパーで試行錯誤

ガードリテンションを鍛えるにはスパーリングでの試行錯誤が不可欠です。

パスされないように相手をグリップしたり、クローズドに捕まえたりするのはたしかに効果的な方法です。しかし、ガードリテンションを鍛えたいなら、パスされるリスクを恐れずにオープンガードにトライすることが重要です。

また、スパーリングでもっとも大事なことはパスされた際の状況を覚えておくことです。どのような動きでパスされたのか、自分のどの部分が弱点だったのかを分析し、次回は同じ状況で負けないように対策を練りましょう。

グラップリングのスパーをするのもガードリテンションを鍛えるいい練習になります。道着で手を使わずに足だけ使ったり、道着をグリップしない限定スパーをするのもガードリテンションを鍛えるいい練習になります。

6.まとめ ガードリテンションを身に付けて柔術を楽しもう

  • ガードリテンションはボトムの土台となる技術
  • ガードリテンションのコンセプトは「相手と自分の間にフレームを入れる」
  • ガードリテンションは地道に知識を身に付ける必要がある

ガードリテンションはボトムで最初に覚えるべき技術です。地道に覚える必要があるので大変ですが、ガードリテンションができるようになると柔術の幅が広がってさまざまなボトムのアタックができるようになります。

この記事を読んでガードリテンションの重要性が伝わり、上達につながったら嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。