本記事の概要
「オープンガードを練習したら、ボトムはもっと上手くなると思うよ」
「相手はオープンガードが強いから注意だな」
柔術を続けていく中で、「オープンガード」という言葉を耳にしたことはないでしょうか?
この記事では、ガードポジションの上達に欠かせない「オープンガード」の概念について、グリップによって分類された3つのガードを切り口に詳しく解説していきます。
- オープンガードと言われてもイマイチ分からない
- オープンガードがもっと上手くなりたい!
- 柔術のコンセプトを学びたい!
BJJ LABのスタッフで、ブラジリアン柔術茶帯。(2024年11月現在)SNS運用や教則プロデュースなど多方面で活躍中。柔術、グラップリングを問わず、教則動画の視聴が趣味で、累計150本以上の教則動画を視聴しています。
オープンガードとは?
定義
オープンガードとは、どのようなガードなのでしょうか?
私はオープンガードを、スパイダーガードやデラヒーバガードといった特定のガードポジションではなく、複数のガードポジションを含むカテゴリとして捉えています。
カテゴリとしては、「足を開いて構えるガードは全てオープンガード」と定義しています。
具体的なオープンガードの種類には、以下のガードポジションがあります。
- 片襟片袖ガード
- スパイダーガード
- デラヒーバガード
- リバースデラヒーバガード
オープンガードに分類されるガードポジションは種類が豊富で、単体ではなく組み合わせて使うこともできます。
強み
オープンガードの強みとは何でしょうか?
第一に挙げられるのが、バリエーションの豊富さです。
オープンガードはガード単体ではなく、カテゴリ全体としてボトムポジションを捉えるため、相手の動きに応じて最適なアタックやディフェンスを選択できます。
さらに、以下のように異なるガードを組み合わせることで、相手の全身をコントロールすることも可能です:
- スパイダー×リバースデラヒーバ
- スパイダー:上半身コントロール
- リバースデラヒーバ:下半身コントロール
- ラッソー×デラヒーバ
- ラッソー:上半身コントロール
- デラヒーバ:下半身コントロール
これにより、パスガードされにくい非常に強力なガードポジションを構築することができます。
オープンガードのもう一つの特徴は、足の自由度が高く、相手との距離をコントロールしやすい点です。
足の自由度が高く、フレームを有効活用できるため、自分より力の強い相手に対しても、力負けすることなくしっかりと止めることができます。
- バリエーション豊富
- 組み合わせは無限大
- 力の強い相手も止められる
このように、オープンガードは、ガードポジションを上達させたい方が必ず深掘りすべき技術体系といえます。
グリップの重要性
オープンガードは、クローズドガードのように足で相手の体を閉じ込めていないため、相手を拘束する力が弱いという特徴があります。
この拘束力の弱さを補うためには、相手との接点となるグリップやフレームを有効活用し、相手のベースを崩して動きを制限する必要があります。
特にグリップは、同じガード内でも相手の動きに応じて常に変化させる必要があるため、オープンガードにおいて非常に重要な要素となっています。
そこで今回は「グリップ」に焦点を当て、以下の3つのガードを切り口にオープンガードを深掘りしていきます:
- 片襟片袖ガード
- 両袖ガード
- クロススリーブガード
それぞれのグリップがオープンガードでどのような役割を担っているのか、見ていきましょう!
3つのグリップからオープンガードを整理する
片襟片袖ガード/Collar and Sleeve
最初は、片襟片袖ガードです。
英語では「Collar and Sleeve」と呼ばれ、このグリップは相手の襟と袖を掴みます。
もっとも一般的な形は正面の袖と対角の襟を掴み、両足を腰と肩に当てます。
腰ではなく肩に当てるシャローラッソーを使うこともあります。
片襟片袖ガードの強みは、相手のベースを大きく崩せることにあります。
袖と襟を引きつつ肩を蹴ることで、相手の体は半身になり、バランスが大きく崩れます。
この引くプレッシャーと押すプレッシャーをかけ続けることで、相手の体は常に傾き、ベースが崩れた状態で拘束することができます。
片襟片袖ガードは、3つのグリップの中で唯一襟を掴んでいるため、相手の頭の位置を下げやすいメリットもあります。
頭の位置が下がることで、三角絞めやオモプラータに繋げやすくなります。
さらに袖を引いているためで脇のスペースが空き、これらの技はより狙いやすいです。
スイープではシザースイープや巴スイープと相性が良く、他のオープンガードではデラヒーバガードに繋げることが多いです。
ハイレベルになると、オモプラータで相手を崩してからKガードを経由してマトリックスに繋げるアタックも見られます。
片襟片袖ガードを得意とする選手は、国内では橋本知之選手でしょう。
海外では、マイキー・ムスメシ選手、
アイザック・ドーダーライン選手、
https://twitter.com/ShoyaIshiguro/status/1680725216836874240
トミー・ランガカー選手が得意としています。
練習する際にオススメの教則は、以下の通りです。
- 橋本知之:『片襟片袖から学ぶオモプラータ』
- 橋本知之:『片襟片袖を通して学ぶBJJ 前編』
- マイキー・ムスメシ:『Collar Sleeve Inside Control System』
まずは橋本選手の教則で基礎基本を固めることをオススメします。
特にBJJ LABの『片襟片袖から学ぶオモプラータ』や、橋本選手の個人販売による『片襟片袖を通して学ぶBJJ 前編』が適しています。
みんな大好きマイキー・ムスメシ選手の教則も素晴らしいです。
オススメ教則に挙げた『Collar Sleeve Inside Control System』は内容が充実していて、個人的には大好きです。
しかし、日本語ではなく英語であることや教則の長さを考えると、いきなりマイキー選手の教則を視聴することはオススメしません。片襟片袖ガードへの理解を深めるためには、コンセプトなどで共通する部分が多い橋本選手の教則で基礎基本を固めてから、マイキー選手の教則を視聴することをオススメします。
豆知識
対角の襟ではなく、正面の襟を掴む片襟片袖ガードもあります。
ラッソーガード愛用者によく見られ、ラッソーガードの天敵であるロングステップパス対策として効果的です。正面の襟を掴み、腕のフレームを入れることでロングステップで相手が距離を詰めてくることを防げるためです。
ラッソーガードを使っている方で、ロングステップパスでいつもパスされてしまう方は正面の襟を掴む片襟片袖も試してみてください。
両袖ガード/Double Sleeve
次は、両袖ガードです。
英語では「Double Sleeve」と呼ばれます。
このグリップは非常にシンプルで相手の両袖を掴むだけです(笑)。
両袖ガードのメリットは、まず相手の両腕をコントロールできることです。
例えば、スパイダーガードからのシザースイープです。スイープを耐えるために相手は手をついてバランスを取りたいですが、両手を引かれてしまうと手をつくことができません。
無事にスイープ成功です。
さらに両腕をコントロールすることで、腕の根本に当たる脇のコントロールもできます。
脇がコントロールできる、すなわち脇のスペースを作り出すことができます。
脇のスペースを作れると、足が抜けやすくなるため三角絞めやオモプラータへのエントリーがしやすくなります。
もう一つの強みはガードの組み合わせが豊富なことです。
相手の両腕の内側にキックスパイダーを当てた両袖スパイダーがもっとも知られていますが、ラッソーやデラヒーバ、リバースデラヒーバを組み合わせることも多いです。相手の足に絡むスパイダーXと呼ばれる組み合わせもあります。
https://youtu.be/HhAvbxcfyrI?si=hfI9NOVLD4cwi6_S
両袖ガードの弱点は、胸を張られると頭の位置を下げにくいことです。
これは襟を掴んでいないため致し方ないですが、他のガードと組み合わせることでこの弱点は補うことができます。
両袖ガードはバリエーションが豊富で、オープンガードを得意としたいならば絶対に習得すべき技術体系です。
両袖ガードを得意とする選手は国内では渡辺和樹選手。
https://shop.bjjlaboratory.com/items/87255149
海外ではマイケル・ランギ選手、
マイケル・リエラ選手がいます。
https://youtu.be/9kVrSGaoZck?si=3NIXivhgcfXpJx6m
練習する際にオススメの教則は、下記2つです。
- 渡辺和樹:『コンプリート・スパイダーガード』
- ジョナタン・トーマス:『Modern Double Sleeve』
両袖ガードを練習するならば、『コンプリート・スパイダーガード』がオススメです。基本となる両袖スパイダーを軸に、デラヒーバやリバースデラヒーバなど他のガードとの組み合わせも学べます。
海外の教則ではジョナタン・トーマス選手の『Modern Double Sleeve』も非常にオススメです。複数のガードを組み合わせたオープンガードのテクニックが豊富に収録されていて、無料版でも十分学べます。深掘りしたい方は有料版の視聴をオススメします。
https://www.mavericksjj.com/courses/modern-double-sleeve
https://www.mavericksjj.com/courses/double-sleeve-foundation
(個人的には、アリエル・タバック選手やルーカス・バレンティ選手の教則も気になっています。)
クロススリーブガード/Cross Sleeve
最後は、クロススリーブガードです。
このガードは対角の袖を掴むグリップであり、クロスガードと呼ばれます。
2on1の組手で袖を引くレーザーガードも同じカテゴリに属します。
今回はグリップを軸に説明したいため、クロススリーブガードで説明します。
クロススリーブガードの最大の強みは、相手の腕を大きく引けることです。腕を引かれた相手は体が半身になり、ベースが崩れてしまいます。
片襟片袖ガードと両袖ガードでも相手の腕を引けますが、肘がマットについてしまうため、引きしろに限界があります。一方、クロススリーブガードは対角に引くため、肘は常に空中にあり、大きく相手の腕を引くことができます。
その結果、以下のメリットが得られます。
- バランス・ベースを崩してスイープができる
- 脇のスペースを作って、三角絞めとオモプラータを狙いやすくする
- 相手と簡単に角度を作ることができる
1つ目と2つ目はシンプルで分かりやすいメリットですね。
では、3つ目の「相手と簡単に角度を作ることができる」ことがなぜメリットになるのでしょうか?
これは「①相手の背中が覗けてバックを狙いやすくなる②相手の足が近くなりKガードやXガードの展開に繋げやすくなる」からです。
相手に正対せずに角度を作ることで、オープンガードからより強いポジションやガードに移行しやすくなるため、メリットとして挙げています。
クロススリーブガードを得意とする選手は、海外のジョナサン・フェネル選手がレーザーガードの名手として知られています。
https://youtube.com/shorts/PxS-EESBse0?si=I6fRghtkatgDw9kF
変則的ではありますが、ポール・シュナイダー選手が提唱するリバースカラースリーブガードもクロススリーブガードの一種でオススメです。
練習する際にオススメの教則は、以下の通りです。
- ジョナタン・トーマス:『クロスガード』
- ジョナサン・フェネル:『The Lazer Guard』
ジョンタン・トーマス選手は教則動画ではなくYouTube動画になりますが、体系化されていて非常に素晴らしい動画になります。まずはこの動画を視聴していただきたいです。
クロススリーブガードが自分のスタイルに合うと感じた場合は、ジョナサン・フェネル選手のレーザーガードの教則も視聴してみることをオススメします。
実は、私自身もクロススリーブガードをまだ磨いている途中です。そのため、練習を重ねて新たな知見が生じた際には加筆修正を行う予定です。その点だけご了承ください。
オープンガードでのグリップの使い分け
3つのガードとそれぞれのグリップに関する理解は深まったでしょうか?
オープンガードを得意とするためには、片襟片袖ガード・両袖ガード・クロススリーブガードを使い分けることが必要不可欠だと私は考えています。
では、どのように使い分ければいいのでしょうか?
私自身の例を紹介させていただきます。
前提として、私は両袖ガードを起点とすることが多いです。
そのため、両袖ガードから他のグリップへの移行と戻し方を中心に紹介します。
動画を撮影しましたので、先に視聴してから以下の記事を読むことをオススメします。
両袖ガード→片襟片袖ガード
両袖ガードから片襟片袖ガードへの切り替えは、相手にキックスパイダーを外されたときです。
キックスパイダーを外す相手の多くは肩が前に出てくることが多く、襟が近くなります。
リーディングエッジのコンセプトに基づき、遠くなってしまった袖にこだわらずに近くなった襟を掴みます。
襟を掴むときは鎖骨を押すと、ズレることなく強く押すことができます。
シャローラッソーの足でもフォローするように鎖骨を押してあげると、相手のプレッシャーをさらに止めることができます。
その後はキックスパイダーの足を内側から回して片襟片袖の形を作ります。
マットに足をピンされて足を内側から回しにくい場合は、膝を体の近くに引き寄せると回しやすくなります。
片襟片袖ガードに切り替えてから相手の体が半身のままであれば、そのままオモプラータや三角絞めを狙うことが可能です。
両袖ガード→クロススリーブガード
両袖ガードからクロススリーブガードへの切り替えは、相手に胸を張られたときによく使います。
両袖スパイダーで胸を張られると、キックスパイダーは当てる面が無くなってしまい、無効化されてしまいます。
胸を張った相手は姿勢が高く、襟を掴むことも距離が遠くて至難の技です。
このときは袖がもっとも近くなるため、片方の袖グリップを離して、クロススリーブガードに切り替えます。(初めは両手で掴むことがコツです。)
クロススリーブガードに切り替えた後は、三角絞めへ。
足が近いならばKガードの展開やシットアップガードの展開に移行することもオススメです。
手足が長い方はディープデラヒーバを差し込むパターンも効果的です。
片襟片袖ガード→両袖ガード
続いて、両袖ガードへの戻し方です。
片襟片袖ガードから両袖ガードへの切り替えは、蹲踞ベースの相手に対して多く発生します。
蹲踞ベースに対して片襟片袖ガードを作ると、肩に当てた足を外して跨いでくる相手が多いです。
相手が自分の足首を掴んできた瞬間に、襟を掴んでいた手を離して袖を掴みます。
袖を無事に掴めた後は、グリップカットをしてキックスパイダーを当てます。
クロススリーブガード→片襟片袖ガード
クロススリーブガードはまだ練習中のため、私は一刻も早く他のグリップに戻したいです(笑)。
クロススリーブガードから片襟片袖ガードに戻す際には、一度ラッソーを巻くことが多いです。
ラッソーを巻くと、相手の動きをスローダウンできるだけでなく、フックの力で相手の頭が下がります。
頭が下がる、すなわち襟が近くなるので片襟片袖ガードに戻すチャンスが生まれます。
片襟片袖ガードから両袖ガードに戻したい場合は、先ほど紹介した方法と同様に行います。
以上が私自身のグリップの切り替えです。もしよろしければ参考にしてみてください。
なお、このオープンガードにおけるグリップの切り替えなど、本記事で紹介しているコンセプトの数々はアンドリス・ブルノワスキ選手の『Flow Jiu Jitsu』で網羅されています。
オープンガードを強化したい方には、超絶オススメの教則です。
ぜひご視聴ください。
https://jiujitsux.com/courses/flow-theory-a-guide-to-transitioning-between-guards/
鉄壁のオープンガードを構築しよう!
いかがだったでしょうか?
本日は「グリップ」に焦点を当ててオープンガードを深掘りしてみました。
この記事を通じてガードに対する新しい発見があれば、何より嬉しく思います。
ぜひ活用してみてください。
なお、この記事は日々の練習やたくさんの教則動画からインプットした内容を言語化しています。
練習に付き合ってくれるみなさん、素晴らしいテクニックやディテールをシェアしてくれる方々、いつも本当にありがとうございます。
今後もインプットは続けていきます。
新しい知見がありましたら、随時リライト予定です。
引き続きよろしくお願いします。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
私と一緒に、鉄壁のオープンガードを構築しましょう!
目指せ、カテナチオ!!!